〈カビコラム25〉災害復旧時の難題-水害後のカビによる二次被害-
水害(浸水)によるカビ発生に要注意
前回のコラムでは、地域によって異なるカビ被害のリスクについてご紹介しましたが、地理的な湿度傾向を無視して起こるカビ被害もあります。
今回はその例として、気候変動により引き起こされていると思われる、豪雨や台風による大規模な水害の二次被害焦点を当てました。
集中豪雨による高潮や河川の氾濫、また崖崩れなどは、ときに人の命を奪い、生活環境に甚大な被害をもたらします。
さらに、嵐が去ったあとの建物で発生する、「カビや細菌の繁殖」にも注意が必要です。
◆ カビによる二次被害
住居が浸水すると、生活環境を取り戻す復旧作業には、多くの時間と労力がかかります。
この作業時には、けがや物損を避けることだけでなく、感染症と復旧後の家屋環境に配慮することが必要です。
河川の氾濫や土砂崩れによって家屋に流入してくる水には、大量の土砂やゴミなどの有機物とともに、菌類が含まれているため、建築物全体をきれいに洗浄する必要があります。
建物に付着した菌類や汚れは、水洗い程度では到底除去しきれず、放置すれば湿気を帯びた建材にカビが繁殖してしまいます。
細菌やカビの繁殖は、衛生面での害となるだけでなく、長期的に放置すると建材の腐敗にもつながりかねません。
躯体を水洗いし、仕上げ材(クロスや塗装)を施したとしても、内側からカビが発生すれば貼り直しが必要となる可能性もあります。
住居が浸水してしまった場合、どのような対処を行えば良いかご紹介したいと思います。
●浸水時の対策① 記録を残す
現在、床下および床上にまで浸水してしまった家屋の生活再建には、いくつかの手順があります。
大きな損害の場合、公的な支援を頼るため、また、専門家の意見を取り入れるためにも、まずは写真などで記録を残すことがとても大事になります。
多くの場合、どこまで、どのように浸水したかによって、浸水時に必要な処置が変わってきます。
●浸水時の対策② 片付け→乾燥→消毒
記録を残した後、片付けに取りかかります。
まず濡れた家具などを片付け、汚水やゴミ・土砂を除去します。
床下や壁内部も浸水してしまった場合は、すべて取り除くために、部分的な解体も必要になります。
流入した水やゴミ・土砂の除去が完了したら、完全に乾燥させて消毒作業に入ります。
(屋根や外壁からの雨などの侵入を防ぐ措置を取ることも必要です)
消毒作業に用いられている消毒剤は、「アルコール」「逆性石鹸」などが主流のようです。
その理由は、解体の進んだ、足場の不安定な家屋での作業性を鑑みて、噴霧が効率的と考えられていることにあります。
さらに、建材に対する腐食性などの使用リスクを考えたうえで選定されていると思われます。
自治体や復興団体が推奨する除菌剤や使用法もありますが、カビ自体の耐久性、また土砂とともに流入してきたことを考えると、次亜塩素酸ナトリウムや、これを有効成分としたカビ取り剤、そのほかの有用なカビ取り剤も含めて、専門家の見解のもと使用薬剤の選択肢を広げていいのではないかと思います。
■”汚れ”と”躯体”に合わせた薬剤の選定
洗浄/消毒作業は家屋だけでなく、その周辺にも施す必要があります。
例えば、コンクリートなどの素材には、土砂や汚水とともに大量の有機物が入り込んでいることが考えられます。
その有機物に覆われたカビの除去のため、アルコールや逆性石鹸を吹きかけるだけでは完璧とは言いがたく、除去が中途半端になると後々のカビの増殖につながりかねません。
カビ除去剤は製品により特性が異なりますが、正しく理解することで、安全に使用して高い効果をもたらすことができます。
※被害範囲が広い場合、さまざまな化学物質が流出している可能性があります。流出した化学物質と薬品とが反応して有害物を発生するリスクも考慮し、使用する薬剤を選定することが大切です。
◆ 備えとして・・・
カビは一度増殖しはじめると、発生源の特定が困難となるため、仕上げ材を施工する前段階で汚れを落とします。
このとき、見た目をきれいにするだけでなく、菌類まで完全に除去することが求められます。
床下までの浸水で済んだとしても、住宅を支える基礎部分が汚染されている可能性を考えなければなりません。
一例として、床や壁を復旧して2~3ヶ月後にカビ臭さに気付き、床下を覗くと基礎コンクリートと根太にびっしりとカビが増殖していた、などという事例が発生しています。
基礎や躯体は、交換するのに大きな労力と費用が発生するため、既存の構造物を活かす復旧が多いと思われます。
カビによる二次被害への備えとして、除菌が必要となる場所・使用する薬剤を把握しておくことも重要です。
復旧作業が落ち着いた後、対処が必要かどうかを確認することを推奨します。
水害直後は、自分や家族の身を守ることが最優先事項です。
身の安全が確保された後、将来の家族の健康と住居の保全のために何を優先すべきか?混乱するものです。
そのための重要な要素として、カビによる二次被害の存在と、カビ対策の重要性を多くの方々に認知いただきたいと思っています。