〈カビコラム33〉カビが引き起こす心身的影響③ – 身近な真菌症その1
意外と身近な「真菌症」
日本でも真菌症という言葉をよく耳にするようになりました。
身近なものでは、「カンジタ症」や「白癬」などの皮膚への影響を与える症例がとても多く、認知も進んでいます。
前回のコラムで触れたコクシジオイデス症を含め、まだ一般的には認知されていない真菌症も多く、予防を考える人も少ないと感じます。
そこで今回は、身近でありながら、深刻な症状をもたらす真菌症を紹介していきたいと思います。
◆重症化すると死に至るアスペルギルス症
カンジタ症に次いで、認知度の高いのがアスペルギルス症です。
アスペルギルス(Aspergillus)属真菌の胞子を吸い込むことによって生じる感染症で、肺アスペルギルス症が代表的です。
通常は肺に発症することが多く、咳や痰、喘鳴など、喘息に似た症状を引き起こします。
重症化すると、血痰、喀血、発熱、肺炎などをもたらします。
アスペルギルス症にはいくつかのタイプがあり、肺の中に菌球を作るものや、血流に乗り、他の臓器に及ぶものなどがあり、治療をしなければ最悪の場合死に至るケースも存在します。
[カビ毒による事故]
2004年にケニアでアフラトキシン中毒が発生し、317人の黄疸患者が報告されました。(患者致死率:39%)
湿気の多い環境下でトウモロコシを保存したため、保存中にアスペルギルスフラバス(Aspergillusflavus)が高濃度のアフラトキシンを作り、それを食べたためと考えられました。
※アフラトキシン:アスペルギルス属(コウジカビ)の一部のカビが産生するカビ毒。発がん性や肝障害などの健康被害を引き起こす可能性がある。
◆クリプトコッカス症
クリプトコッカス症は、特に鳩の糞に存在するクリプトコッカス・ネオフォルマンス、クリプトコッカス・ガッティによって引き起こされる感染症です。
クリプトコッカス症も髄膜炎などを引き起こす致死的感染症であり、免疫不全の有無に関わらず発症する恐れがあることから、かなり有名になったのではないでしょうか。
◆インドで猛威を振るったムコール症
日本でも発症例が確認されるムコール症という真菌症があります。
ムコール症とはムコール(Mucor)属、クモノスカビ(Rhizopus)属などのケカビ(Mucorales)目に属する真菌により引き起こされる感染症です。
土や植物、肥料、腐った果物や野菜によくみられる真菌によるものと考えられます。
最も多い病型は鼻脳型で、副鼻腔から感染が始まり、眼窩や口蓋を巻き込み、脳へと波及します。
急速に進行し大多数が致死的転機を辿るとされています。
2021年4月より新型コロナウイルスの大流行に見舞われたインドでは、少なくとも45,000人がムコール症に感染したと報道されています。
死者は4,300人を上回るとも言われており、新型コロナウイルスへの治療中に抵抗力が落ち、感染しやすくなってしまったと考えられています。
健康な状態であれば皮膚病を発症する程度のものが、命を脅かす症状にまで発展してしまうケースもあるのです。
真菌症はいつ猛威を振るうか想像ができません。
本件のような事態を認識し、準備を進めていく必要があると考えます。