〈カビコラム43〉見えない脅威と戦う!建物の空気環境管理の重要性
私たちは普段、何気なく呼吸していますが、その空気の質についてどれくらい意識しているでしょうか?
目には見えず、特別な臭いがしない限り気づきにくい空気の汚れは、私たちの健康にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
特に多くの人が利用する建物では、その管理が非常に重要になります。
ビル衛生管理法と空気環境測定の基本
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」
通称『ビル衛生管理法』をご存じでしょうか?
(ビル衛生管理法:建築物における衛生的環境の確保に関する法律_厚生労働省)
この法律では、不特定多数の人が出入りする一定規模以上の建物において、室内の空気環境を衛生的に保つことが義務付けられています。
空気環境測定では、以下の6つの項目が定期的に調査されます。
- 浮遊粉塵(ふゆうふんじん): 空気中に漂う微細なチリやホコリ
- 一酸化炭素: 不完全燃焼などで発生する有害なガス
- 二酸化炭素: 人の呼気や燃焼などにより発生するガス(換気の目安になります)
- 温度: 室内の快適性と微生物の増殖に関わります
- 湿度: カビやダニの発生、ウイルスの活動に影響します
- 気流: 室内の空気の流れや換気効率に関わります
これらの項目を定期的に測定することで、建物内の空気環境を一定の基準に保ち、利用者の健康を守っています。
見えない微生物との戦い:空気環境測定の限界
しかし、この空気環境測定だけでは捉えきれない「見えない脅威」が存在します。
それは、空気中に存在する微生物(菌やウイルス)による汚染状況です。
微生物は、単体で空気中を漂うだけでなく、ホコリやチリに付着して存在することもあります。
残念ながら、現在の空気環境測定では、これらの微生物の具体的な種類や量を詳細に把握することは非常に困難です。
そのため、病院や食品工場、化学製品を取り扱う施設など、より厳格な衛生管理が求められる建物では、ビル衛生管理法で定められた項目以外にも、独自の基準を設けて微生物汚染の調査や対策を行っています。
室内の微生物汚染はなぜ複雑なのか?
微生物は、私たちが思っている以上に複雑な要因によってその状態が変化します。
建物の立地と季節変動
まず、建物の立地が大きく影響します。
例えば、平野部と山間部、都市部では、外気の質が異なります。
さらに、季節によっても空気中の微生物の種類や量が変化します。
春には花粉や黄砂、夏には高温多湿によるカビの発生、冬には乾燥によるウイルスの飛散など、季節ごとの特徴があります。
外気流入と人の往来
室内の空気環境は、室外に比べて管理しやすいと思われがちですが、実際はそう単純ではありません。
外から取り入れる空気が常に変化することに加え、建物内を往来する人の数や活動によっても、室内の微生物の状況は絶えず変化します。
人が移動することで、衣類や体から微生物が持ち込まれたり、舞い上がったりするため、室内の微生物の種類や量は、調査するたびに異なる結果になることがほとんどです。
建材・家具が微生物に与える影響
さらに、建物内で使用されている建材や家具も、微生物の「住みやすさ」に大きく関わってきます。
例えば、床材を考えてみましょう。
ツルツルとした塩化ビニル製の床材に比べて、絨毯はホコリや湿気を取り込みやすく、微生物が滞在・増殖しやすい環境と言えます。
また、木材のカウンターや手すりなども同様です。
コーティングが施された建材は水をはじくため、湿気を保有しにくいのに対し、無垢の木材は湿気を吸収しやすく、微生物にとって好適な環境となり得ます。
もちろん、最近では抗菌性能に優れた建材が数多く開発されており、デザイン性や雰囲気作りの自由度も高まっています。
しかし、建材の素材によって微生物の滞在リスクが変化するという認識を持つことが、衛生管理の第一歩となります。
効果的な空気環境管理へのアプローチ
現在の清掃計画で改善できない空気環境の課題がある場合、闇雲に対策を講じるのではなく、建物の用途に応じた衛生レベルを明確にすることが重要です。
そのためには、以下のステップでリスク分析を行い、最適な改善策を逆算してみる価値があります。
- 立地によるリスク分析: 建物の周囲の環境(交通量、周辺施設、緑の多さなど)が、外気の質にどう影響するかを評価します。
- 空気の流入に対するリスク分析: 外気の取り入れ方、窓やドアの開閉頻度、人の往来の多さなどが、室内の空気質にどう影響するかを評価します。
- 使用される建材・素材に合わせたリスク分析: 床材、壁材、家具などの素材が、微生物の滞在や増殖にどう影響するかを評価します。
これらの分析結果に基づき、必要な衛生レベルを維持するための適切な環境改善設備(高性能フィルター付き換気システム、空気清浄機など)や、効果的な清掃計画が見出されるでしょう。
空気環境の管理は、目に見えないからこそ専門的な知識と継続的な取り組みが必要です。
建物の利用者様の健康と快適な環境を守るために、ぜひ一度、ご自身の建物の空気環境について考えてみませんか?