〈カビコラム45〉見えない空気の質を高める!機能性建材とビルメンテナンスの新たな視点
前回のコラム(〈カビコラム44〉見えない脅威から身を守るための空気環境改善策)では、1日に約1万リットルもの空気を無意識に吸い込んでいる私たちの暮らしにおいて、目に見えない空気環境の重要性についてお伝えしました。
健康意識が高まる中、食や水への関心は高まっていますが、呼吸する空気の質については見過ごされがちです。
今回は、その「空気の質」を根本から見直し、快適な空間を創り出すための建材や、プロの視点から見る対策方法について深掘りします。
空気清浄機能を持つ建材が注目される理由
「換気」や「空気清浄機」による空気環境改善が一般的ですが、近年では、建物の素材そのものに空気環境を整える機能を持たせるアプローチが注目されています。
特に高齢者施設や保育所、公共施設など、長時間人が滞在する居住空間で採用されるケースが増えてきました。
◆「ビニールクロス」の知られざるデメリット
現在、日本の住宅や多くの施設で最も広く使われている内装材が「ビニールクロス」です。
デザインや色のバリエーションが豊富で、従来の塗り壁に比べて施工が容易かつ安価な点が最大のメリットでしょう。
しかし、その手軽さの裏には注意すべきデメリットが存在します。
- 湿気を閉じ込め、カビの原因に: ビニールクロスは塩化ビニル樹脂を主原料としているため、通気性がほとんどありません。コンクリートや石膏ボードに直接貼り付けると、躯体内部の湿気を逃がすことができず、結露やカビの発生につながることがあります。
- VOC(揮発性有機化合物)の発生: 接着剤や原料に含まれる可塑剤などから、ごく微量ながらVOCが発生する可能性があります。日本の建築基準法では、ホルムアルデヒドやクロルピリホスなどの特定VOCの発散量が規制されていますが、ゼロにすることは不可能に近いため、十分な換気が不可欠です。
湿度とニオイをコントロールする「機能性壁材」の進化
高温多湿な日本の気候において、ビニールクロスのデメリットを補う形で注目されているのが、調湿機能や消臭機能を持つ機能性壁材です。
タイル調のものや塗り壁材など、デザイン性にも優れた製品が多数開発されています。
- 湿気を吸収・放出する「調湿機能」: 多くの機能性建材は、空気中の湿気が多い時に吸収し、乾燥する時期には放出するという「調湿機能」を備えています。これにより、結露の抑制や、カビ・ダニの繁殖を防ぐ効果が期待できます。
- ニオイを分解・吸着する「消臭機能」: 調湿と同時に、タバコやペット、生ごみなどの生活臭の原因となる物質を吸着・分解する機能も備えています。特に複数のニオイが混じった複合臭にも効果を発揮し、常に空気を清浄に保つ助けとなります。
これらの機能性壁材は、ビニールクロスに比べて高価な傾向にあるため、利用頻度がまだ少ないように思います。
また、水分や汚れも吸収する性質を持つものも多いため、水や汚れの飛散しやすい場所への利用は検討が必要かもしれません。
「後付け」の空気清浄化ソリューション
既存の建物に空気清浄機能を付加したい場合、内装をすべて張り替えるのはコストや時間面で大きな負担となります。
そういったケースに対応できるのが、後から定着させることができるコーティング材です。
◆光触媒コーティングの仕組み
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- 酸化チタンなどの金属を主成分としたコーティング剤をビニルクロス(壁)やフローリング(床)、木材などに塗布します。
- このコーティングは、太陽光や蛍光灯などの光が当たると強力な酸化力を発揮し、空気中のVOC、細菌、ウイルス、カビ、悪臭物質などを水と二酸化炭素に分解して無害化します。
- 近年では、光がなくても触媒反応を起こす「暗所反応型」の製品も開発されており、日当たりの悪い場所や夜間でも効果を発揮します。
このコーティングは、一度の施工で長期間にわたって効果が持続するため、日常の清掃では取り切れない根本的な空気環境の改善策となります。
空間の目的に合わせた「総合的な対策」が重要
現在は騒がれなくなってきましたが、シックハウス症候群がなくなったわけではなく、私たちの生活空間には常に何らかの化学物質や浮遊物質が存在しています。
建築時に使用される建材は、VOCの値を下げ、リスクを減少させるための基準が設けられていますが、やはりゼロにすることは不可能であると考えられます。
空気の質を維持するためには、特定の建材や設備だけに頼るのではなく、建物の利用頻度や利用用途に合わせて、以下のような総合的なアプローチが必要だと考えます。
- 換気設備の適切な運用: 定期的な換気や、空気清浄機、24時間換気システムの適切な利用。
- 清掃計画の見直し: 埃や汚れを溜めないための清掃計画。
- 機能性建材の積極的な利用: 新築やリフォーム時に、調湿・消臭機能を持つ建材を選択。
- コーティング材の活用: 既存の建物には、光触媒などのコーティングを提案。
私たちが毎日呼吸する空気は、健康な生活の基盤です。
このコラムが安心・安全な空間を維持する際の新たな視点となり、空気環境を見直すきっかけとなれば幸いです。