〈カビコラム7〉製造施設の異物混入① HACCP の現状と課題
食品取扱施設では 2020 年6月より HACCP(ハサップ)※ 1 の導入が始まり、もうすぐ1年となります。
本年5月末には猶予期間が終わり、完全義務化となりますが現状どこまで反映されているのでしょうか。今回は、現在の食品取扱施設で寄せられているお困りごとに触れていきます。
■マネジメント教育の是非
清掃やカビ対策で赴く多くの事業場では、HACCPの導入が進んでいます。主に、健康被害をおよぼすリスク対応は、あらかた整備されたのではないでしょうか。
HACCP でいう HA(危害分析)は、仕入れる原材料の状態から保存環境、また、物理的危害が考えられる異物の混入や微生物危害、化学物質危害と、導き出すだけでも大掛かりな作業であると想像できます。
しかし、これからの課題は、選定された CCP(重要管理点)の対策とそれに伴う教育であると指摘できます。
CCP の対策方法を決定したあとに、これを正しくモニタリング継続していかなければ、結果の分析が正しく行われなくなり、対策案が正しかったのかどうか、是正箇所があるのかどうか判断がつきません。これで事故が起きてしまったら元も子もないのです。
つまり、CCP とは製品を安全に製造する工程のなかで絶対に外すことのできない最後の砦に位置しているのです。これを順守するためには、一定の精度で必ず行うルールが新たに生まれることになり、ルールを守れない作業従事者が存在すると HACCP で取り入れた対策案は、意味を成さなくなってしまうのです。
この継続は、あらゆる事業所で広まっている5S※ 2のなかに存在する「しつけ」と等しいです。しつけは、実行する従事者はもちろんのこと、管理者までもが「目的」を一致させることが重要になります。
作業現場で見かけるのは、「ルールは守れ」「ルールだから」と言う管理者の姿です。決められた作業手順やその手法の必要性を説いたうえで、「何のためのルールか」を共有できなければ、ルールは守られずに監視を続けなくてはならなくなります。多岐にわたる工程と大人数の関係者がいる製造現場で、目的を一致させるというのは容易ではありません。まずは価値観を共有するための作業従事者への教育とその教育者を育てることに時間をかける必要があります。
もう一つの課題は CCP と PRP(前提条件プログラム)との連結にあります。HACCP の導入を機に、見直しがかけられた事業場もあると思いますが、CCP の精度を高めるには PRP すなわち「前提になる環境改善とその維持」の価値を高めていくことが重要になります。作業従事者の管理はもちろん、作業場や設備の清掃、洗浄、殺菌という工程についても引き続き向き合っていくことが重要なのです。
※1 “Hazard” =危害、“Analysis” =分析、“Critical” =重要、“Control” =管理、“Point =点の 5 つの単語の頭文字に由来する衛生管理の手法で、製品への危険物質の混入に対し、作業過程を整理・分析・管理することでそのリスクを減らす
※2 整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字の S をとったもの。組織をあげて取り組み、徹底してきれいにする活動を意味する